共訳フェロウシップ 初期写本
はじめに
かつて映画『The Lord of the Rings』の誕生と共に創造された地があった。
皆から『聖地』と崇められたその場所には世界中から賢人が集い、指輪物語の世界を映画のみならず、原作や作者であるトールキン教授の他の作品からも読み解こうとする文芸運動が花開いていた。
その一つに、映画には登場せず、原作にだけ登場する異質の存在であるトム・ボンバディルの謎を紐解こうとする動きがあった。
人々はその運動を『トムの謎会議』と呼んでいたが、やがてその流れはより大きな潮流となって一つの伝説的な会合を生み出すことになった。
その会合の名は『共訳フェロウシップ』
トム・ボンバディルの謎を解明するにあたり原作からの手がかりに限界を感じた結果、作者であるトールキン教授の残した文献に光明を見出そうとした有志達による探究活動であった。
『教授、トム・ボンバディルを語る』と題されたその文献の要約はしかし、英語で綴られていた。日本語を母国語とする者達が多かった会合において、
その意味を吟味してトム・ボンバディルの真実に迫る為には、英語のままでは深層に切り込むための足がかりを掴むことにさえ苦労した。
そこで彼らは持てる知恵を振り絞り、英文で綴られたその文献を彼らなりの表現で日本語に置き換えつつ、トム・ボンバディルなる存在を教授がどう捉えていたのかについて議論を戦わせていったのだ。
故にその会議は『共訳フェロウシップ』と呼ばれるようになった。これが『共訳フェロウシップ』黎明期の流れである。
トム・ボンバディルの謎に迫るため、2002年5月に初会合が開かれて始まった『共訳フェロウシップ』は、その後多くの議題を持ち寄り、意見を交わし合う場として発展していった。その議場となったのが、長窪（ピピン）様の家『袋小路屋敷の庭』であった。
しかし2008年10月7日、『共訳フェロウシップ』の議場を司っていた『アラウンドＢＢＳ』が突如としてその御手を離したため、議場は一瞬にして消滅した。
多くの賢者達によって6年半にも渡り議論が繰り広げられ蓄積されて来た言葉の遺産は、そこに集った者達の記憶の中にのみ語り継がれ行くこととなったのだ。
だが、であごるはそのごく一部を写し取り保管していた。なぜなら、不肖であごるも数々の賢人に混じって『共訳フェロウシップ』に参加していたからである。
それはまだ、この地に『あやめ野スミアル』が誕生する2か月も前の事、『共訳フェロウシップ』黎明期の文献、『教授、トム・ボンバディルを語る』の共訳と、それを基にしたトム・ボンバディルの謎の解明に、であごるも加わっていたのだ。
この本は、その活動の初期を記し、長窪（ピピン）様の『袋小路屋敷の庭』の研究室に保管された議事録の一部を書写したものである。
手元にある資料は極々僅かであり、そこから書写された各題目も途中で途切れているものばかりであるが、かつて確かに存在していた伝説的会合が如何なるものであったのか、
その一端でも伝え残せることが出来れば、であごるもその一員であったことに意義が見出せよう。
最後に、会合の場を提供して下さった長窪（ピピン）様を初め、そこに集い指輪物語を語らい合った『共訳フェロウシップ』の皆様に、この著を捧げます。
であごる
『共訳フェロウシップ』