共訳フェロウシップ 初期写本
研究室＠袋小路屋敷の庭
名前の支配性について
P1の読み解きから出て来た『名前の支配性』についての解釈ですが、虚無との戦いに忙殺されていた時と重なってしまい、私自身考えをまとめる時間かありませんでした。しかし、この
点はトムの本質に関わる部分であり、何らかの答えを見出したいと思っております。
そこで、間もなく『master in a peculiar wayとは？：Ｐ１を読み解く』が閉じられることもあるので、新たなトピックとして独立させました。
☆唐鳥えるさま、ぎむさま。
＞真実の名前は唯一無二で、存在そのものなのです。それで真実の名前を知ることによって相手を支配できるし、名前の無いものは忌まわしきものなのです。
＞したがって名前をもたないもの、というものが存在する、ということがあるのかな〜と思う訳です。もちろん民族によっても程度の差はあるでしょうが。でも「名前に支配されないも
の」、はあるかもしれませんね。
お二方の言われる概念については、私も理解できたと思っております。しかし、トムの本質と私が解釈する部分に矛盾が生じることはなく、むしろこの概念を物語に組む方が、解釈に説
得性が付加されるように感じました。
トールキンの世界にも『シルマリル物語』のフェアノオルや、フロドが持つ『いとしいしと』を前にしたゴクリなど、誓言によってその身を拘束される者の姿が描かれており、言葉の持
つ力についての要素が存在します。また、名前を呼ぶ時には、「○○の息子、××」という言い方が顕著に見られ、存在を表す名前に託された意味や、そこに見られる血の繋がりを強く
感じます。（それが支配性であるとは、今まで感じなかったのですが）
しかし、こうした言葉や名前の持つ力を考えると、一つの定めが見えてくるように思えます。それは、真実の名が存在そのものを表すと共に、その名が他の存在によって付けられるとい
う定めです。
世に生まれた者が他の存在（親や一族など）によって最初の名を授かった時に、その名に存在の全てが込められるとすれば、名（＝存在）とは、他者があって初めて実体化するというこ
とになります。だからこそ、その名を知られた者は、他者（自分以外の全ての存在）による支配を受け、またその定めを生まれながらにして有することになるのでしょう。これが、唐鳥
えるさまやぎむさまがおっしゃる概念なのだと解釈しました。（誤解があるかもしれませんが）
だとすれば、トムなる存在は誰に名前を授けられたのでしょうか。エルフに『最古にして父なき者』と呼ばれ、中つ国に最初に降った雨粒、最初に実ったどんぐりの実を知るトムには、
彼の名を授ける存在がいたのでしょうか。私は、「最初の者」として、名前＝存在の支配性という定めの外にいる唯一の存在がトムなのではないかと感じました。
つまり、彼が「名前に支配されないもの」だとすれば、それは彼が「名前を持たないもの」だからだということにならないでしょうか。その本質性があるからこそ、後から生まれてくる
ものに対しても、名前の支配性という概念をもって見ることなく、存在を名前から放して見ることが出来るのではないかと思いました。
エルロンドの言葉に、「そのころはボンバディルとは言わなかった。ヤールワイン・ベン＝アダールと我々は呼んでいた。･･･それ以後も彼は、いろんな種族からいろんな名前を与えられ
てきた。ドワーフたちはフォルンと呼び、北方の人間たちはオラルドと呼んだ。他にもまだ色々名前があった。」とあります。
これはトムが真実の名を隠した結果なのでしょうか。だとしたら、なぜトムは意図的であるにしても無意識であるにしても、その真実の名を知られないままに来たのでしょうか。意図的
であれば、トムにある種の『恐れ』を持たせなければ説明出来ないように思えます。また無意識だとしたら、なぜ彼はこうまで多くの呼び名を相手によって付けられて来たのでしょうか
。トムが「名前による支配を受けないもの」であれば、真実の名を明かすことに何らためらいは無く、彼の名は唯一無二のものだけでいいように思えます。しかし、その唯一無二の名だ
けが分からないのです。
私は、トムがこれだけ多くの名を持つのは、彼を見る者によってしか、その姿形に名前を付けられない存在だからだと感じます。しかしそれでいて、彼は絶対的な存在として、いつの時
代も、誰に対しても、全く同じ姿に映るのではないでしょうか。
トムが中つ国に存在する何らかの要素を表すものであるならば、時の作用を受けることなく存在し、存在そのものによって彼の実在性は証明されるように思います。
＞わたしが了解しているのは、真実の名前はつけられるのでは無く見出されるものです。つまり真実の名前は生まれながらに持っているのであり･･･
難しい･･･。この概念の奥の深さに困惑しております。しかしそう考えると、やはりこの概念は『指輪物語』に組み込むべき要素ではないのかもしれません。
公式掲示板で唐鳥えるさまの『エレスサール』に関する書き込みを読ませて頂きましたが、それを前提に後の物語を見ていくと、『真実の名前の支配性』に対する根拠が見えてこなくな
るように思えるからです。
アラゴルンは『エレスサール』の名をガラドリエルより受けた後、自らその名を公言するだけでなく、どうやらサウロンにもその存在を明かしているように思えます。彼がパランティア
の石によってサウロンに挑戦した際のことかもしれませんが、後に黒門前でアラゴルンと対峙した『サウロンの口』は彼に対して「王になるには、一片のエルフのガラス玉や、かかる暴
徒ども以上のものが必要なのだ。」と嘲るように言っています。しかし、それでいてアラゴルンの存在に怯んでもいるのです。
これを見ると、アラゴルンは名ではなく、やはり存在に拠って立つ者であるように思えますし、サウロンも名の支配性についての概念は持っていないように感じました。
真実の名を知られただけで支配されることはなく、それに抗し得る力を持たない者だけが支配されるというのであれば、まだ説明も付くのですが、それだと結局は『存在が名のあるじ』
のようにも思えて来ますし、『指輪物語』に描かれる言葉や名前に込められた力は、むしろこちらの概念なのかもしれません。
ここに来て早くも暗礁に乗り上げる気配です。この議題はやはり、唐鳥えるさまのおっしゃるように、「１５３番の手紙から：『トムの名は？』」の読み解きが鍵なのでしょう。
ならば、とりあえずは解釈の域に留めて、これ以上の膨張は避けるべきかもしれません。自分で考えていて、現時点でこれ以上の答えが出てくるのか分からない状態に陥っています。
『トムの名は？』と『名前の支配』
旧研究室にある二つのトピックの内、どちらで話すべきことであるかが分からなくなったので、二つを合わせてしまいました。
尚、メッセージが長すぎるとのエラーメッセージが出ましたので、分けて掲載致します。
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二つの流れを見た上で思ったトムの観点についてです。
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ここに来て思うのは、名前の支配性を考えると、その対象は生あるものに限定されてしまうのではないかということです。支配というからには、それが当たり前だとも言えるのですが、
それでは、Evenstarさまの１５３番の手紙から：『トムの名は？』のサマリーにあるように、トムが絶対的存在として認識するのは、自然やホビットなどの命を持つ者だけなのでしょう
か。例えば、椅子やコップや家などの人工物については、それぞれ名前がありますが、トムはそれらについては絶対的な存在として認識していないのでしょうか。つまり、それらについ
ては存在そのものを見ずに、名前をもって対象を認識しているのでしょうか。
私はそうは思いませんし、その部分を説明することで、トムが万物をどのように見ているかという、私なりの解釈も見えてくるように思えます。
説明が難しいのですが、目の前にコップがある時、それを目にした瞬間にその存在を認識します。しかし、それは自分が認識することでコップの存在を証明しているのであって、コップ
そのものの実在性は、それを見て認識しなくとも証明されるはずです。簡単な言い方をすると、目をつぶって自分を取り巻く空間を意識した時、何も見えないからそれらの存在が否定さ
れるのではなく、自分がそれを見ずとも、その場にいなくとも、万物がそこに在ることは確かなのです。
トムがもの（自然やホビットやコップなど）を見る時は、そのような実在性を感じているのではないでしょうか。つまり、相手を認識するにあたって、名前は表層に加わる一つの分析対
象としかならず、それを知ろうとも知らずとも、実在性を感じる彼には些細なことだということです。
：続く：
：続き：
そのようなトムの観点を、ここまであえて触れなかった『一つの指輪』を対比させることでも説明出来るように思います。
『一つの指輪』は、それ自体がアンドゥインの川底にあった時点では、存在を否定されたような状態にあります。なぜなら、『指輪』はそれ自体が悪意ある力を秘めていようと、それを
使う者がいなければ、川底に転がる石と同じだからです。つまり、『指輪』は絶えず対象を求める存在であって、他に対してあるという相対を宿命付けられたものなのだと思います。そ
して、『指輪』を意識した者は、その時点で『指輪』との相対関係に位置付けられてしまうのでしょう。
しかし、トムはあらゆるものを絶対的に見るのです。指輪の力は恐らくトムにも囁いたであろうし、トムも指輪に無関心という訳ではありません。彼は『指輪』を“科学的な探究心”の
ために色々と観察した上に、小指にもはめています。それでも、相対を宿命とする指輪と、それを絶対的に捉えるトムは、全ての意味において調和し得ない関係にあるのではないでしょ
うか。つまり、『指輪』はトムを自分との相対関係に引き込めないのです。なぜなら、トムは自分に囁く指輪の力をも観察の対象（＝絶対的・独立したもの）としてしか見ないからです
。
また、指輪をはめて姿を消したフロドも、トムにしてみれば、『姿を消したフロド』という存在なのです。だから、目をつぶっていても実在性を否定し得ないように、トムにはフロドが
如何なる状態にあろうと認識出来たのだと思います。
これらによって、トムは自分を含めたあらゆるものを名ではなく、存在によって認識するのではないかと思うわけですが、『指輪』の囁きが名前の支配性と関係しているとすれば、その
概念も説明が付くように思えます。つまり、真実の名を統べる外なる力がトムに囁かれようとも、トムはそれを自分を支配する力とは感じずに、そのような作用を有する力学的・自然科
学的現象として知るに過ぎないということです。それはアラゴルンのように、人間的な力量によって支配を受けないのとは違って、本質的・根本的な要素として支配が及ばないというこ
とであり、生あるものに適応される名前の支配性には属さぬ存在として、真実の名もあってないようなものとなるわけです。
ただ、このような見方は、トムに真実の名前があっても無くても説明出来てしまうような気もするので、結局は答えが導き出せず、解釈に終わるしかないようにも思えます。
難しい･･･
名前と存在
＞唐鳥えるさま
「陰陽師」での会話は実に興味深いです。名前の支配性を表すとともに、トムとの対比も見せてくれるように思えます。
＞博雅「難しいな。おれに名がなければおれという人はこの世にいないということになるのか？」
＞晴明「いや、おまえはいるさ。博雅がいなくなるのだ。」
これこそ、トムが相手の何を見ているかを表していないでしょうか。「名付けられぬものがあるとすると、それは何でもないということ。存在しないとも言える。」しかし、その実在が
否定される訳ではないのです。フロドが「あなたはどなたですか、ご主人？」と問うた際に答えたトムが見ていたのは、まさにここで言う『博雅』ではなく、『おまえ』だと思います。
そして、トムはあらゆるものをその様に見るのだと思います。
ただ、前回の書き込みでは触れなかったのですが、引っかかっているのが、ゴールドベリの存在です。トムは果たして、ゴールドベリさえもそのように見ているのかと思うと、自分でも
『？』を付けざるを得ないのです。ゴールドベリのためには花を摘んで、ある意味自然の形を自分の意図に合わせて変化させているからです。そう考えると、トムは彼女に対してだけは
、名前に重きをおいて（＝ある種の主観を込めて）見ているのかもしれません。
＞こちらへはおひさしぶりではありませんか？お引越しの片づけがなかなか終わらないのでしょうかと思っていました。
P2読み解きには参加していたのですが、『名前の支配性』や『トムの名』については周りにかかった霧がますます濃くなって来た感じがして、自分の中でまとまらない状態が続いており
ます。そのため歩みが鈍っている次第です。
＞aiwendilさま
トムが『真実の名』を持つかどうかというのが、ここでの主要なテーマの一つになっております。それが『名前の支配性』という概念と結びつくことで、トムは名を持たないから支配か
らも無縁であるとか、名を持っているが、その作用が及ばないから支配からも無縁であるとの解釈が生まれ、私自身、色々と考えておりますが、結論は出ずじまいです。それで、彼が名
を持たない場合と持っている場合の解釈を自分で展開しつつ、揺れ動いているというのが現状で、どうもそれ以上考えようとすると思考が停止状態になってしまいます。
トムは名前を必要としない観察者であるとは思うのですが、同時に、それらの名前を一つの観察対象として知り、理解はするのです。ホビット達と普通に会話が出来るのは、他者と概念
を共有するための名前を知り、理解しているからです。これらのことを考えていると行き着く極論ですが、そもそも、なぜトムは言葉を話すのでしょうか。それも時代を隔ててエルフや
ホビットやその他の種族に色々な名前をもらいながらです。そういう意味で、観察者としての彼は、周りに影響を与えない訳ではないのかもしれませんが、自分自身、まだパニック状態
です。
難しい･･･
DELETEDが多くてすみません。未だに扱い方を間違えることがしばしばです。
存在とは。
＞存在そのものって何でしょうか？藤の花は藤の花なのではないでしょうか？
藤の花は藤の花ですが、では、前回の晴明の会話に従って、藤の花から藤の花という名前を取ってみて下さい。
＞清明「たとえばおぬしは博雅という呪を、おれは晴明という呪をかけられている人ということになる。この世に名づけられぬものがあるとするとそれは何でもないということだ。存在
しないとも言える。」
＞博雅「難しいな。おれに名がなければおれという人はこの世にいないということになるのか？」
＞晴明「いや、おまえはいるさ。博雅がいなくなるのだ。」
この会話に従えば、博雅＝「藤の花」で、おまえ＝「藤の花という名を付けられていた植物」、ということだと思います。そして、この「おまえ」というのが存在そのものではないでし
ょうか。
最初の晴明の言葉にもそれは見られます。「たとえばおぬしは博雅という呪を、おれは晴明という呪をかけられている人ということになる。」この二人からそれぞれ、博雅、晴明という
呪を解いて下さい。その結果、二人は「何でもないということだ。存在しないとも言える。」という状態になるのですが、それでも「この世にいないということになるのか？」との問い
は否定されるのです。
ということは『陰陽師』には、真実の名を持って生まれてくる『存在』という概念があるのではないでしょうか。それは、たとえ『存在』＝『名前』でも、存在は存在という、そして名
前は名前という、この世を形作っている'要素’として両者は独立しているもので、それらが合わさることで、初めて『名前の支配性』という概念が生まれるということなのだと思います
。でなければ、この会話で晴明が言う「おまえはいるさ」の意味が見えてこなくなるように思えます。
しかし、だからと言って、存在そのものを見る者が、それを見て花なのか美女なのかコップなのか定かでなくなる訳ではないのです。このような言い方をするから見えにくくなってしま
ったのかもしれませんが、『存在そのものを見る者』とは、トム・ボンバディルのことです。トムは存在を見つつも、それに付けられた名前も知り、理解しています。そしてトムが花や
美女やコップを存在として同時に見たとしても、それらは『存在』という名前で括られた一つの物体として映る訳ではなくて、花という名が付いた植物、美女という名が付いた人、コッ
プという名が付いた人工物として、それぞれの姿形をもって識別されるでしょう。存在を絶対的に見るとは、そういうことだと思います。
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（＞それが花なのか美女なのかコップなのか定かではない、という状態は、もはや「人知の範囲では存在しない」といってもいいのではないでしょうか？
）
この解釈を読ませて頂いて、『陰陽師』における『存在』と『名前』の密接な関係が見えたように思えます。名前がなければ万物は「人知の範囲では存在しえない」となるのが『陰陽師
』の世界だとしたら、『指輪物語』は名もなき草木や
しかし『指輪物語』にも同じ概念があるのかどうか、まだ判じかねております。
トムはある要素を体現しているということなのですが、そうであれば、トムの言うことは一つの真理を表すことになります。そのトムがフロドに言う『名前なきもの』という言葉を『陰
陽師』に当てはめると、フロド＝「博雅」、名前なきもの＝「おまえ」となると思います。それを、上記した私の解釈に従って読めば、「フロド」という名を付けられていても、君は「
名前なきもの」つまりはただひとりの「存在」（＝自己・自我？）でしかない、となるのですが、
名づけられることによって美女になってしまうのでは、存在そのものが変えられたと捉えたほうがいいのではないですか？
『陰陽師』の世界では、名付けられることによって『藤の花』が『みつむし』という美女にまで変わってしまうのですが、これは果たして『名前の支配性』という概念なのでしょうか。
確かに、花が美女に変われば、存在そのものも変質しているでしょう。しかし、この会話を見る限りでは、晴明の呪によって真実の名が『藤の花』から『みつむし』に変えられることで
、存在が変化しているように思えます。つまり、存在＝名前ではなくて、存在＜名前のように見えるのです。
『指輪物語』でも言葉によって呪がかけられたり、名前に宿命が込められたりと、言葉や名前の力に対する概念はありますが、
この概念では、呼び名はその存在をどう見るかによっていろいろつけられますが、真実の名前は唯一無二で、存在そのものなのです。それで真実の名前を知ることによって相手を支配で
きるし、名前の無いものは忌まわしきものなのです。
＞博雅「難しいな。おれに名がなければおれという人はこの世にいないということになるのか？」
＞晴明「いや、おまえはいるさ。博雅がいなくなるのだ。」
トムの声
aiwendilさまの「他者との関係」と「力の行使」についてを読ませて頂いて、これを名前の支配性に当てはめて考えることは出来ると思いました。
そもそも名前の支配性とは、万物は生まれながらに真実の名を持つものであり、それは存在の本質そのものであるという概念です。だからこそ、その名は経験を積むことで発見されたり
、力ある者によって見出されたり、また掌握されたりすることで、存在の支配にも繋がるのです。
だとすると、これを支配論的に見れば、二つの見方が出来るわけです。一つは、この概念の通り、「真実の名」を知ることで相手の存在を支配すること。そしてもう一つが、「真実の名
」を知らずとも、生まれながらにして定められた「存在の本質そのもの」を知りさえすれば、相手を支配できるということです。『陰陽師』では人間が真実の名を知ることによって相手
を支配するのですが、「真実の名」＝「存在」であるなら、存在そのものを絶対的に知り、理解する者にとっては、真実の名を見極めるまでもなく、相手の本質を知り、それを掌握し得
るのではないでしょうか。
そして、そのように相手を見る者がいるとすれば、それがトムです。名前の支配性という概念を『指輪物語』に取り入れるとするなら、トムが古森でフロドとサムの動きを止めたのは、
名前の支配というよりは、その概念の本質が示す「存在」の支配を、その欲を持たず、彼の本性によって為したためだと解釈出来ると思います。
ただ、このように見ると、トム自身は「名前の支配性」という概念に無縁であり、それ故、名前による支配も受けないのですが、彼の存在そのものは、自らを律する空間において、本来
的にあらゆるものを支配（束縛ではなく、自然法則のままにあるように）しているとも言えるかもしれません。
あんたはまだ私の名前を知らないのかね？答えはこれだけだ。あんたはわたしにだれかというが、そいういうあんたはだれなのかね？あんたはただひとりで、あんた自身で、そして名前
なきものではないかね？」
＞yet？
yet?の後に続くトムの言葉を見ると、私はそれがトムの隠された名を暗示しているとは思えませんでした。
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「あんたはまだ私の名前を知らないのかね？答えはこれだけだ。あんたはわたしにだれかというが、そいういうあんたはだれなのかね？あんたはただひとりで、あんた自身で、そして名
前なきものではないかね？」
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「答えはこれだけだ。」ということは、今フロドの目の前にいる「トム」がその全てであるということで、その後に続く言葉を見ると、この『yet？』は、「まだ知らないのかね？トム・
ボンバディルはフロドが今見ている通りの人物だよ、わたしがフロドを見ているのと同じように。」という意味があるように感じ、これらの言葉が「名前」ではなく「存在」を見る者の
、「名前」を求めることの無意味さを暗示した言葉に聞こえました。
また、旅を終えたフロドならずとも、トムの真実の名を知っている者が中つ国にいるようには思えないのです。例えばエルロンドやガンダルフでさえ、彼らの生きている時間を考えても
、フロドと同じ程度にしかトムのことを知らないように思えます。それに、彼の名前については「トム」「ベン＝アダール」「フォルン」「オラルド」「その他色々」という感じで、全
て他人が付けた名前です。それは彼らにしても、トムの真実の名を知らないことを示していますし、トム自身が、おそらくホビット相手には自分のことをトムと呼び、エルフ相手にはヤ
ールワインと呼んで接して、名前への関心を示さないのだと思います。なので、トムが言った「yet？」という語に、「いずれは分かる時が来る」というフロドを試す意味合いがあるとは
感じませんでした。
確か、このトムのせりふについての解釈が『名前の支配性』についての始まりだったような気がしますが、結局めぐりめぐって一回りしてしまったのを見ると、如何に困難なテーマかを
実感します。
難しい･･･
＞フロドの真実の名は「リングベアラー」
「Ring-bearer」＝「指輪所持者」という意味でしょうか。確かにイシルドゥア以降の指輪所持者（ホビット5人）には指輪の意志をも超えた運命的なものを感じます。また「Ring-bearer
」が真実の名だとすると、指輪を捨てる意志のある者にとっては、必然的に「Ring-bearer」であることを放棄しなければならないという自己否定的運命が含まれますし、捨てる意志のな
い者にとっても、「Ring」が消滅すれば自分もいなくなる運命に置かれ、彼らが同じ終局に向かう（死んだり旅立ったりして中つ国から去る）ことにも繋がるように思えます。ただ、そ
うなるとフロド以外の指輪所持者も皆「Ring-bearer」が真実の名となってしまいますが、大いなる運命に編まれた者達として、同じ名を持つこともあるということでしょうか。また、デ
アゴルに関しては指輪の発見と同時に死んでるので、妄想気味に言えば、デアゴルの死が逆説的に指輪の消滅を予見しているとなるかもしれません。
＞会議で決まったにせよ、それから数々の冒険をしてはじめて名前にふさわしい者になりました。
「真実の名前」＝「存在そのもの」とすると、「Ring-bearer」の名にふさわしい者とは、フロドにとってどういう状態をさすのでしょうか。最終的にフロドは、スメアゴルと同じように
指輪に身を委ねてしまいますが、「Ring-bearer」という名からすれば、それこそが究極的な形での「名前」＝「存在」とも言えるように思えます。それとも、それ以前の指輪の誘惑に抵
抗していた時期が「Ring-bearer」にふさわしい状態なのでしょうか。それとも指輪を破棄した後で自分を取り戻した時でしょうか。
ただ、真実の名は、力のある魔法使いなどが見抜いたり、自分が苦難を乗り越えるなどして成長して発見するものだということなので、フロドの場合は前者だと思うのですが、同時に「
他者につけられるのは単なる呼び名」であるとすると、フロドはエルロンド会議で自らが所持者として旅に出ると決意した時点で、既に名前にふさわしい者となっていたようにも思いま
す。
難しい･･･
原点に返って･･･1
私自身、これまで『名前の支配性』について、それを中つ国世界にも適用する、もしくは適用しない形で解釈をして来たのですが、結局『トムの真実の名』についてはほとんど筋が見え
てきません。というのも、中つ国世界の概念がそのままトム・ボンバディルにも適用されるのかという前提的な問題があり、名前の支配性を軸にトムを考えても、彼に真実の名前がある
のかどうかが分からないからです。
名前の支配性を前提に、トムと指輪の囁きについて、ここのスレッドの《：続き：》で少し触れたのですが、彼が本質的に名前を無意味なものとしているなら、そもそも彼が彼の領域で
どれだけ長い時間を生きようとも、また《トム･ボンバディルの冒険》を繰り広げようとも、真実の名は見出されることは無いでしょうし、また、彼自身が生まれた瞬間、人間の子供と同
じように未熟で未経験な存在であったのなら、存在を示す名の発見にも意味があるのですが、トムについてはおそらく、それは無いと思われます。となると、彼には真実の名前が無いの
でしょうか。それとも、他の存在同様、彼にも名はあるが、彼自身がそれに拘泥せず、また、本質的に名前の支配性を受けないために、どうでもいいことと思っているのでしょうか。こ
のように、「名前の支配性」を軸に考えると、結局はどちらをとっても解釈出来てしまうように思えるのです。それに、フロドの『Ring−bearer』にしてもそうなのですが、アラゴルン
の『エレスサール』と違って、物語中で真実の名前かもしれないと匂わせる場面がなく、予測に留まる範囲でしか解釈が出来ないとなると、やはり見方の違いによって色々と考えられて
しまい、それはトムにしても同様なのです。
原点に返って･･･2
そこで、私は原点に戻って、P1読み解きの際、トムの「master」性について感じた、トムと名前と存在の関係についてを改めて考えてみました。
そもそも私は、トムがフロドに言った台詞から彼が物事を絶対的に見ているように思い、名前によって自分なりの価値観などを通して存在を見ることが無く、故に全てのものをそれら自
身に属したものとしか見ないため、支配や所有の概念を持たないのではないかと思ったのです。そこでは、名前の支配性という概念は考えておらず、『先に存在があり、それに名が付け
られる以上、名が存在そのものになるとは思えません。やはり、その存在をどう見るかによって、名前という意味が付けられるのでしょう。』と書いたのですが、それは今思うと、我々
人間の観点ではなく、トム・ボンバディルの観点として言っていたと思います。
しかし、「名前の支配性」という概念では、存在が名前の先に立つことはなく、真実の名は唯一無二であり、存在そのものであるということでした。私にとってそれは新しい概念でした
が、それをトム･ボンバディルに当てはめて考え始めた時から、私の思考はモリアへと向かってしまったようです。この時から、絶対的にものを見て、支配欲や所有欲を持たないトムが、
『名前の支配性』という概念の元でも支配・被支配の概念から無縁でいられるための解釈を考えるしかなかったからです。ですが、トムについてある程度読み解きが為されて来た段階に
なって、尚も『名前の支配性』と『トム･ボンバディル』を結び付けて考えて行って、どれほど進展があるのだろうかと思います。先に挙げたように、名前の支配性を軸に考えると、どの
ようにでも解釈出来てしまう位、トムには謎が多いのと同時に、その中でも、トムについて具体的に見えてきた面もあるからです。
トムはある'要素’として物語りに組み入れられた結果、中つ国世界を舞台にした物語において、善悪の区別なく存在する支配や被支配の図式からは、完全に自由な存在となったようです
。また、それ故に、彼は'master'として登場したということ。それでも、『トムとゴールドベリ
』のスレッドで書いたように、彼にもその要素ゆえ、また中つ国の住人ゆえの制約を感じ
るのですが、名前の支配性については、彼を制約する如何なる点についても言及されておらず、むしろトムが名前の無意味さについて諭す台詞の解説が主となっている様子です。
原点に返って･･･3
これらのことが分かってくると、『名前の支配性』という概念のあるなしに関わらず、中つ国の通念をトムに当てはめることが出来るのかと、根本的な疑問が出てきます。ですので、今
回はあくまでトム・ボンバディルを軸にして考えたいと思います。
＞１５３番の手紙前半の読み解きでも、トムは名前より存在そのものを見ている、という主張がありますが、真実の名前＝存在そのものとするならば、それもあり、ですよね。
これは、トムが名前より存在そのものを見るためには、真実の名前＝存在そのものという「名前の支配性」の概念が必要であるということでしょうか。だとすると、この考えは先に「名
前の支配性」があり、それにトムを当てはめる序列であり、ある条件の元ではトムはこう見えるとなってしまうように思え、結局は先に挙げたように、解釈次第でどのようにも見えてし
まうようになるのです。
そうではなく、「名前の支配性」という概念があろうとなかろうと、トムは名前よりも存在そのものを見ているという前提を軸に考えると、これまた先に挙げた『先に存在があり、それ
に名が付けられる以上、名が存在そのものになるとは思えません。』という、『名前の支配性』の概念とは違った観点をトムに持たせることが出来ます。
＞そして、わたしたちが思考するときかならず言語を使うなら、存在を認識するとそれは言葉の形をとるのであり、それが科学とか理論とかの思考へつながるかしら、とも考えています
。
これについても、「わたしたちが思考するとき」という条件の元でトムを見た場合、彼が存在を認識した時にそれが言葉の形をとるとなるのですが、それ以前に、名前よりも存在そのも
のを見ているという前提でトムを見れば、彼に限ってはそのような見方はしない（存在と名前<言葉>を同時に認識しない）のだ、となるのではないでしょうか。即ちそれは、真実の名前
＝存在そのものという「名前の支配性」の概念があろうとなかろうと、トム・ボンバディルのものを見る目は普遍であるということです。
こうしてトムの名を考えると、やはり「あんたはまだ私の名前を知らないのかね？答えはこれだけだ。あんたは私に誰かというが、そういうあんたは誰なのかね？あんたはただ一人で、
あんた自身で、そして名前なき者ではないかね？」という台詞に行き着くのです。この言葉は、少なくともフロドについて、名ではなく存在を見ている言葉と思っているのですが、トム
が相手によってその見方を変えるとは思えず、また、それは彼自身に対しても同じだと思うからです。つまり、トムにとってフロドが名もなき者であれば、トム自身もそうだということ
であり、我々の観点からトムを見て、フロドの『Ring−bearer』のように何らかの名を見出したとしても、それがトムにとって何の意味もなさないものである以上、それが真実の名前で
あったとしても、『＝存在』とは、トムに限ってはなり得ないということ、即ち、トムを軸にして考えた時、真実の名前すらが否定されてしまうということです。よって、トムには真実
の名前は無いのだと思います。
このような見方をしたのは、決して『名前の支配性』という概念を否定しているからではなく、そちらを軸に考えた結果、意見が堂々巡りしてしまったため、その概念からトムを離して
考えたかったからです。『指輪物語』に『名前の支配性』の概念があるにしても、それを基本として考えるべきは、「存在を認識した時に言葉の形をとる」者達のみであって、トムにつ
いては、まずトムの資質を前提に置くべきだと思いました。
当然、物語の中でホビット達と触れ合う時、トムは相手を名前で呼びますが、だから彼が名前＝存在として相手を見ているとはならないわけで、
それは『指輪物語』が『陰陽師』のように（違うかもしれませんが）「名前の支配性」という概念を前面に押し出しておらず、それも一つの要素として世界観の中に組み入れているため
、直接的に名前の支配性に対するエピソードを見つけるのが（それらしき点はあるものの）困難なためもありますが、おそらく、それがトムの真実の名と結び付かないエピソードだから
というのが、最大の要因ではないでしょうか。
中つ国世界に『名前の支配性』という概念があったとして、それははたしてトム・ボンバディルという存在にも及ぶ概念なのでしょうか。また、それを含んだ形でトムが描かれているの
でしょうか。旧掲示板でこのトピックが出て来た時、「先にあげたような概念がトムにまつわる『名前』にもあてはまるならば、」という前提で展開して行ったと思うのですが、私の思
考がどうしても停止してしまうのは、『名前の支配性』をトムに当てはめようとすると、トムを他の登場人物と同じ'要素’として見なければならないように思えて来るからです。「名前
の支配性」をトムに当てはめると、トムという存在がある以上、彼にも真実の名前がある筈となるのですが、では、名前がある以上、彼も支配の対象にはなり得るのでしょうか。しかし
、彼は本質的に物事を絶対的に見るのであり、
トムは中つ国の住人として登場しますが、他のあらゆる登場人物とは全く違う'要素’のようです。しかし、その中で彼は自己の範囲を持ち、言葉を喋って家に住んでいます。
＞トムの違和感
私もトムに感じる違和感を、何とか中つ国世界の中に収まる形で解釈しようとして、名前の支配性の概念を初めとする我々の通念を軸に色々考えていたようです。しかし、その違和感に
私はシリアスな面を感じてはいませんでした。トムの原点が人形にあったことが分かってみると、いつも歌い踊って陽気な感じで、ホビット達が命の危険にある時でも全く様子が変わら
ない点などは、まさにトールキン教授のお子さんが好き勝手にトムの人形で遊んでいる感じなのかなとも思えます。
そのトムを、ある'要素’を体現させて『指輪物語』にそのままの形で登場させたことを考えると、「最古にして父なき者」という意味には、『指輪物語の世界体系以前に存在していて、
私の手によって作られた訳ではない人形」というユーモアも含まれているのでしょうか。
＞「指輪物語からはみだしてしまった要素を体現している」とまで言われると、いまだに？？？なのです。
物語ではガンダルフやエルロンドですらトムの実態を掴み切れていませんし、ゴールドベリにトムのことを説明させているような感じもします。それは、トムの体現しているものが物語
からははじかれつつ、世界の要素としては厳然と存在している反面、トム自身が必ずしも、その要素を説明する義務を負っていないためではないでしょうか。「体現している」とは、極
端な話、ある'要素’としてそこにいるだけで成立するもので、そこで他の登場人物と話をする際にも、自分の本性を作家の立場をもって説明することはせず、あくまで物語世界の一員と
しての制約を受けて会話をします。だから、トムは決して自分から「純粋な自然科学を体現している」とは言いませんし、それ以前に、彼の存在があることそれ自体によって、既に要素
を'表現’しているのです。ただ、それがホビット達と関わることによって、辛うじてその一端を匂わせているかもしれない程度にしか、トムという'要素’が行動を起こさないので、ト
ールキン教授の意図をこうして知らない限り、物語からそれを読み解くことは難しいと思います。
また、それは『指輪物語』の主点ではないので、もし教授がホビット達に冒険を求めなかったら、やはりトムという'要素'は、埋もれたまま物語に現れることはなかったかもしれません
。ホビットの旅路以外に、トムが物語に関わる場所が見つからないからです。