共訳フェロウシップ 初期写本
研究室＠袋小路屋敷の庭
トムと指輪の関係
サウロンの指輪の思惑を定義するとすれば、それは所持者を堕落させ、主人の元に帰るために指輪をはめさせることにあると思います。
ただ、ここでいう堕落とは精神が歪むという意味だけでなく、あらゆる意味において指輪の『力』に何かを期待する心も含まれます。
そのため、指輪は主人にしろ所持者にしろ、絶えず対象を求める存在であって、言わば相対的な本質を有するわけです。あの囁きはそれを表しており、指輪の作用は誰に対しても、トムにさえも働きかけるものなのでしょう。
そして、トムにしても指輪に無関心ということはないのです。現に彼はフロドが持つ指輪に興味を示し、それを指にはめてもいます。
しかし、それは彼の純粋な科学的探究心がさせたことであり、そうして得た指輪に関する知識も、彼の探求欲を満たしたに過ぎないのだと思います。
故に、支配欲や所有欲から本質的に無縁であり、知識を手段としてではなく、目的としてのみ有するトムは、指輪の何たるかが理解できた時点で、指輪そのものに対する一切の関心はなくなったのでしょう。
また、彼にとって指輪とはそういう対象としてのみ認識されるもので、おそらくトムは、指輪をその力を含めて絶対的な存在（独立的実体）として見られる唯一の人物なのではないでしょうか。
そういう意味で、相対を宿命とする指輪と、それを絶対的に捉えるトム・ボンバディルは、全ての意味において調和し得ない関係にあるのだと思います。
また、それは指輪との関係に限ったことではなく、トムはあらゆるものの存在を自分との相対関係として見ず、自分自身と同様、絶対の対象として科学的探究心を満たす
別の言い方をすると、トムが手にとって見た指輪は、対象を持たずただ存在するだけの、アンドゥインに沈んでいる時の指輪と同じものなのでしょう。