P1の読み解きから出て来た『名前の支配性』についての解釈ですが、虚無との戦いに忙殺されていた時と重なってしまい、私自身考えをまとめる時間かありませんでした。しかし、この点はトムの本質に関わる部分であり、何らかの答えを見出したいと思っております。
そこで、間もなく『master in a peculiar wayとは？：Ｐ１を読み解く』が閉じられることもあるので、新たなトピックとして独立させました。
　
　
☆唐鳥えるさま、ぎむさま。
　
＞真実の名前は唯一無二で、存在そのものなのです。それで真実の名前を知ることによって相手を支配できるし、名前の無いものは忌まわしきものなのです。
＞したがって名前をもたないもの、というものが存在する、ということがあるのかな〜と思う訳です。もちろん民族によっても程度の差はあるでしょうが。でも「名前に支配されないもの」、はあるかもしれませんね。

お二方の言われる概念については、私も理解できたと思っております。しかし、トムの本質と私が解釈する部分に矛盾が生じることはなく、むしろこの概念を物語に組む方が、解釈に説得性が付加されるように感じました。

トールキンの世界にも『シルマリル物語』のフェアノオルや、フロドが持つ『いとしいしと』を前にしたゴクリなど、誓言によってその身を拘束される者の姿が描かれており、言葉の持つ力についての要素が存在します。また、名前を呼ぶ時には、「○○の息子、××」という言い方が顕著に見られ、存在を表す名前に託された意味や、そこに見られる血の繋がりを強く感じます。（それが支配性であるとは、今まで感じなかったのですが）
しかし、こうした言葉や名前の持つ力を考えると、一つの定めが見えてくるように思えます。それは、真実の名が存在そのものを表すと共に、その名が他の存在によって付けられるという定めです。
世に生まれた者が他の存在（親や一族など）によって最初の名を授かった時に、その名に存在の全てが込められるとすれば、名（＝存在）とは、他者があって初めて実体化するということになります。だからこそ、その名を知られた者は、他者（自分以外の全ての存在）による支配を受け、またその定めを生まれながらにして有することになるのでしょう。これが、唐鳥えるさまやぎむさまがおっしゃる概念なのだと解釈しました。（誤解があるかもしれませんが）
　
だとすれば、トムなる存在は誰に名前を授けられたのでしょうか。エルフに『最古にして父なき者』と呼ばれ、中つ国に最初に降った雨粒、最初に実ったどんぐりの実を知るトムには、彼の名を授ける存在がいたのでしょうか。私は、「最初の者」として、名前＝存在の支配性という定めの外にいる唯一の存在がトムなのではないかと感じました。
つまり、彼が「名前に支配されないもの」だとすれば、それは彼が「名前を持たないもの」だからだということにならないでしょうか。その本質性があるからこそ、後から生まれてくるものに対しても、名前の支配性という概念をもって見ることなく、存在を名前から放して見ることが出来るのではないかと思いました。
　
エルロンドの言葉に、「そのころはボンバディルとは言わなかった。ヤールワイン・ベン＝アダールと我々は呼んでいた。･･･それ以後も彼は、いろんな種族からいろんな名前を与えられてきた。ドワーフたちはフォルンと呼び、北方の人間たちはオラルドと呼んだ。他にもまだ色々名前があった。」とあります。
これはトムが真実の名を隠した結果なのでしょうか。だとしたら、なぜトムは意図的であるにしても無意識であるにしても、その真実の名を知られないままに来たのでしょうか。意図的であれば、トムにある種の『恐れ』を持たせなければ説明出来ないように思えます。また無意識だとしたら、なぜ彼はこうまで多くの呼び名を相手によって付けられて来たのでしょうか。トムが「名前による支配を受けないもの」であれば、真実の名を明かすことに何らためらいは無く、彼の名は唯一無二のものだけでいいように思えます。しかし、その唯一無二の名だけが分からないのです。
　
私は、トムがこれだけ多くの名を持つのは、彼を見る者によってしか、その姿形に名前を付けられない存在だからだと感じます。しかしそれでいて、彼は絶対的な存在として、いつの時代も、誰に対しても、全く同じ姿に映るのではないでしょうか。
トムが中つ国に存在する何らかの要素を表すものであるならば、時の作用を受けることなく存在し、存在そのものによって彼の実在性は証明されるように思います。